膝のお皿の周りや奥が痛い方へ/膝蓋大腿関節炎
膝のお皿の周りや奥が痛い方へ
膝蓋大腿関節の痛みと変形性膝関節症との違い
「階段を下りるとき、膝の前が痛い」
「立ち上がると、お皿の周りがつらい」
「しゃがむとお皿の奥が痛み、ゴリゴリ・ミシミシする」
このような膝の前側の痛みで相談に来られる方がいます。
膝の前が痛いといっても、痛む場所や動作はさまざまです。
特に、お皿の周囲や奥が痛む場合は、膝蓋大腿関節まわりの負担が関係していることがあります。
ただし、音がすることや階段で痛むことだけで、原因を一つに決めることはできません。
痛む場所、動作、腫れ、可動域、最近の活動量などを合わせて確認することが大切です。
膝蓋大腿関節はどこにありますか?
膝蓋大腿関節とは、膝のお皿である膝蓋骨と、太ももの骨である大腿骨が接する部分です。
お皿の裏側は、大腿骨の前にある溝に沿って動きます。
膝を曲げたり伸ばしたりすると、お皿も位置を変えながら動き、太ももの筋肉が膝を支えるのを助けます。
階段、しゃがみ込み、立ち上がりなど、膝を曲げたまま体重を支える動作では、この部分に力がかかります。
青で示したお皿の裏側と大腿骨の接触部分が、膝蓋大腿関節です。
位置関係を分かりやすくした模式図であり、個人の損傷を示すものではありません。
国際的な合意文書では、膝蓋大腿部の痛みは、お皿の周囲または奥の痛みが、膝を曲げて体重を支える動作で強くなる状態として整理されています。
膝蓋大腿部痛の定義と評価に関する合意文書
こんな動作で痛みやすくなります
膝蓋大腿関節まわりの負担を考えるときは、次のような場面を確認します。
- 階段の上り下り。特に下りで痛い
- しゃがむ、深く膝を曲げる
- 正座や床からの立ち上がり
- 椅子から立ち上がる
- 長く座ったあとに動き始める
- ランニング、ジャンプ、スクワット
階段を下りるときは、体が落ちすぎないように太ももの筋肉がブレーキをかけます。
膝を曲げた状態で体重を支えるため、お皿と大腿骨の間に力が加わります。
しゃがむ深さ、階段の高さ、速度、回数によって負担は変わります。
「階段を使ったから悪くなった」と一つの動作だけを原因にするのではなく、最近どの動作がどのくらい増えたかを見ます。
膝蓋大腿関節に加わる力は、歩行、階段、スクワット、ランニングなどで異なることが、研究をまとめた報告でも示されています。
日常動作と運動中の膝蓋大腿関節の力を整理した系統的レビュー
ゴリゴリ・ミシミシするのは悪いことですか?
膝を動かしたときに、ゴリゴリ、ミシミシ、パキパキといった音や振動を感じることがあります。
これを膝の軋轢音(れきおん)・クレピタスなどと呼びます。
膝蓋大腿部の痛みがある方に音がみられることはありますが、音がすることだけで、軟骨が傷んでいる、変形が進んでいる、手術が必要という意味にはなりません。
女性の膝蓋大腿部痛を調べた研究では、音は多くみられたものの、痛みの強さや活動量、身体機能との明確な関係は確認されませんでした。
膝の音と痛み・機能の関係を調べた研究
ただし、急に始まった強い痛み、腫れ、ロッキング、体重をかけられない状態を伴う場合は、音だけの問題と考えず医療機関で確認してください。
若い人やスポーツをする人にも起こります
膝蓋大腿関節まわりの痛みは、中高年だけのものではありません。
成長期の方、若い女性、ランニングやジャンプを行う方、スクワットなど膝を曲げて力を出す運動が多い方にもみられます。
2018年の系統的レビューでも、膝蓋大腿部痛は成人だけでなく、思春期や身体活動の多い集団にもみられることが報告されています。
膝蓋大腿部痛の発生率と有病率に関する系統的レビュー
女性に多い傾向はありますが、男性にも起こります。性別や年齢だけで決めつけず、痛む場所と動作を確認します。
なぜお皿の周囲や奥へ負担が集まるのでしょうか
膝蓋大腿関節の痛みは、一つの原因だけで説明できるとは限りません。
- 階段、ランニング、スクワットなどの量が急に増えた
- 膝を深く曲げる動作が続いた
- 太ももの筋肉がうまく力を出しにくい
- 股関節や足首の動きが少なく、膝へ負担が集まりやすい
- 立ち方や着地で、膝の向きが毎回大きくぶれる
- 靴や路面、仕事・家事の環境が変わった
- 痛みをかばい、以前と違う動き方になった
このような条件が重なっていることがあります。
「お皿の動きが悪いから」「お尻の筋肉が弱いから」と、一つだけを犯人にする説明はできません。動作の特徴が見つかっても、それが痛みの唯一の原因とは限らないためです。
膝の前が痛いときは、場所と動作を分けて見ます
患者さんが「膝の前」と呼ぶ範囲には、いくつもの組織があります。
痛みの場所と特徴 | 確認する組織の例 | 動作の手がかり |
お皿の下を押すと局所的に痛い | 膝蓋下脂肪体、膝蓋腱など | 伸ばし切り、圧迫、歩行量増加など |
お皿の周囲・奥が痛い | 膝蓋大腿関節まわりなど | 階段、しゃがむ、立ち上がる、長時間座位など |
膝の内側が痛い | 関節、半月板、内側の腱など | 荷重、歩行、ひねり、立ち上がりなど |
これは診断表ではありません。
痛む範囲は重なり、同じ膝に複数の状態が存在することもあります。
お皿の下なのか、お皿の周囲・奥なのかを整理すると、確認すべき場所の手がかりになります。
そのうえで、押した反応、動作、腫れ、可動域、外傷の有無を合わせて見ます。
変形性膝関節症とは違うのでしょうか?
膝蓋大腿関節まわりの痛みと、変形性膝関節症は同じ言葉ではありません。ただし、実際には症状が重なったり、両方が存在したりするため、簡単に二つへ分けられるものでもありません。
一般に、膝の内側の関節に変形が目立つタイプでは、内側の荷重痛、歩き始め、長時間歩行などが問題になることがあります。
一方、膝蓋大腿関節まわりの痛みでは、お皿の周囲や奥が痛み、階段、しゃがみ込み、立ち上がりなどでつらくなることが手がかりです。
ただし、変形性膝関節症は膝の内側だけに起こるものではありません。
お皿と大腿骨の間に変形がある「膝蓋大腿関節の変形性関節症」もあり、階段やしゃがみ込み、ゴリゴリ感などが重なることがあります。
確認すること | 膝蓋大腿関節まわりの痛みを考えるとき | 典型的な内側型の変形性膝関節症を考えるとき |
痛む場所 | お皿の周囲、奥、前面 | 膝の内側を中心に感じることがある |
痛みやすい動作 | 階段、しゃがむ、深く曲げる、長く座った後 | 歩き始め、長時間歩行、荷重、立ち上がりなど |
押した反応 | 一点より、お皿の周囲や奥の不快感として出ることがある | 内側の関節周囲に圧痛が出ることがある |
年齢 | 若い人から中高年まで | 年齢とともに画像上の変化は増える |
画像検査 | 症状と身体所見を中心に判断し、必要時に画像で別の病気を確認 | レントゲンなどで関節の変化を確認する |
この表も自己診断のためのものではありません。
お皿の周囲が痛い変形性膝関節症もあれば、変形がなくても膝の内側が痛むこともあります。
変形性膝関節症と言われても、診断名だけで焦らなくて大丈夫です
年代によっては、レントゲンで変形性膝関節症の変化が見つかり、整形外科で診断名を伝えられることがあります。
レントゲンの情報は大切です。
ただ、画像上の変形があることと、今感じているお皿の周囲や奥の痛みが、すべてその変形から出ていることは同じではありません。
レントゲン上の変形と痛みの一致度を調べた文献整理でも、画像所見と症状には大きなばらつきがあり、レントゲンだけで個人の膝痛を判断しないことが勧められています。
膝の痛みとレントゲン所見の一致度を調べた研究
整形外科の診断を否定するのではなく、画像に加えて、今つらい場所と動作を改めて確認することが大切です。
休むだけが治療ではありません
歩くだけでも強く痛む、膝が大きく腫れているといった時期は、負担をしっかり減らす必要があります。
一方、症状が落ち着いている範囲では、何もかも中止するのではなく、何を減らして、何を残すかを考えます。
調整するもの | 具体的な考え方 |
階段 | 不要な往復を減らし、手すりやエレベーターも使う |
しゃがみ込み | 深さを浅くし、長く止まらない |
椅子 | 少し高い椅子や肘掛けを使い、立ち上がりの負担を減らす |
ランニング | 距離、速度、坂、頻度を一度に増やさない |
筋トレ | スクワットの深さ、重さ、回数を調整する |
日常生活 | 長時間座りっぱなしを避け、短い休憩と姿勢変更を入れる |
調整したあとは、動作中、終わった直後、翌朝の反応を確認します。
その場では大丈夫でも、あとから痛みや腫れがはっきり増える場合は、今の量が多かった可能性があります。
自宅でできること
深く曲げて痛む動作を一度浅くする
正座、深いスクワット、低い椅子からの立ち上がりなどで痛む場合は、深さや回数を減らします。
膝をまったく曲げないという意味ではありません。楽に動かせる範囲を残します。
座りっぱなしを避ける
長く座るとつらい方は、同じ角度で膝を曲げたままにせず、ときどき姿勢を変えます。
立つ前に、痛くない範囲で軽く曲げ伸ばしする方法もあります。
痛みが出にくい範囲で筋力を保つ
状態に応じて、高めの椅子からの浅い立ち座りや、股関節周囲の軽い運動などを選びます。
膝と股関節を対象にした運動療法は、膝蓋大腿部痛の基本的な対応として推奨されています。
ただし、同じ運動が全員に合うわけではないため、痛みや翌日の反応を見て調整します。
膝蓋大腿部痛に対する運動療法などの国際合意文書
靴と活動量を一緒に確認する
靴を替えた時期、靴底の摩耗、足とのフィット感を確認します。
靴だけを原因にせず、その時期に歩行量や運動量も増えていなかったかを振り返ります。
サポーターやテーピングは補助として使います
サポーターやテーピングで、階段や運動時の痛み、不安が少し軽くなる方はいます。
ただし、どちらも膝蓋大腿関節を治す道具そのものではありません。
負担を調整し、必要な運動を続けるための補助として考えます。
2024年のベストプラクティスガイドでは、説明と膝・股関節を対象にした運動療法を基本とし、テーピングなどは状態や希望に合わせて追加する方法が勧められています。
膝蓋大腿部痛のベストプラクティスガイド
一般的な膝サポーターについては、運動療法を上回る効果が十分に示されていません。
使用する場合は次を確認します。
- 着けた状態で動きやすいか
- 締め付けすぎていないか
- しびれ、冷たさ、皮膚の赤みやかぶれがないか
- 装着中や外したあとに痛みが増えないか
- 楽になっても、活動量を急に増やしていないか
合わない場合は無理に使わず、種類や装着方法も含めて相談してください。
当院では膝だけで判断しません
当院では、お皿の周囲だけでなく、次の点を確認します。
- 膝を曲げ伸ばししたときの痛みと可動域
- 階段、立ち上がり、しゃがみ込みでの動き方
- お皿の動きと周囲を触れたときの反応
- 太ももの筋力と力の入り方
- 股関節、骨盤、足首の動き
- 立ち方、歩き方、つま先と膝の向き
- 靴のフィット感や摩耗
- 仕事、家事、通勤、スポーツで最近増えた負荷
変形性膝関節症という診断名だけで決めつけず、今のお皿の周囲や奥へ負担が集まりやすい条件を整理します。
ただし、整形外科での検査が必要と考えられる場合は、医療機関での確認を優先します。
こんな症状は医療機関で確認してください
次のような場合は、「膝蓋大腿関節の痛みだろう」と自己判断せず、整形外科などの医療機関で確認してください。
- 急に強く腫れた
- 強い熱感や赤みがある
- 発熱を伴う
- 転倒、衝突、ひねりなど外傷のあとから痛い
- 体重をかけられない
- 膝が動かない、ロッキングする
- 膝崩れを繰り返す
- 安静時も強く痛い
- 夜間痛が強い
- 痛みが急激に悪化している
- 負担を調整しても長期間改善しない
膝蓋大腿関節まわりの痛みについてよくある質問
ゴリゴリ・ミシミシするのは悪いことですか
音だけで損傷の程度は分かりません。痛み、腫れ、ロッキング、動かしにくさを伴うかを確認します。音が急に変わり、強い痛みや腫れを伴う場合は医療機関で相談してください。
階段の下りで痛いのはなぜですか
下りでは、体を支えながらゆっくり下げるために太ももの筋肉がブレーキをかけます。
膝を曲げて体重を支えるので、お皿と大腿骨の間に力が加わります。
ただし、階段痛だけで原因を決めることはできません。
正座やしゃがむと痛いのは関係ありますか
深く膝を曲げると、お皿と大腿骨の接触状態や関節にかかる力が変わります。
膝蓋大腿関節まわりを確認する手がかりですが、半月板やほかの組織でも痛むため、場所とほかの所見を合わせて見ます。
変形性膝関節症とは違うのですか
別の言葉ですが、症状が重なったり両方が存在したりします。変形性膝関節症は内側だけでなく、お皿と大腿骨の間に起こることもあります。
レントゲンと、今痛む場所や動作の両方を確認します。
膝蓋下脂肪体の痛みとはどう違うのですか
膝蓋下脂肪体では、お皿の下を押したときの局所的な痛みや、伸ばし切りでの痛みが手がかりになります。膝蓋大腿関節まわりでは、お皿の周囲や奥が、階段、しゃがみ込み、立ち上がりなどで痛むことが手がかりです。
ただし、場所だけで断定はできません。
若くても起こりますか
はい。思春期、若い成人、スポーツをする方にもみられます。
中高年だけの問題ではありません。
スポーツを続けても大丈夫ですか
痛みの強さ、腫れ、種目、練習量によって異なります。
すべて中止するのではなく、距離、速度、坂、深さ、回数などを調整し、動作中と翌日の反応を見ます。
強い痛みや腫れがある場合は続けず、状態を確認してください。
サポーターは使った方がいいですか
着けると楽になる方もいますが、全員に必要ではありません。
治療の代わりではなく補助です。締め付け、しびれ、皮膚トラブル、痛みの増加があれば外します。
どのくらいで良くなりますか
痛みの期間、負担の内容、腫れ、筋力、生活やスポーツの状況で異なります。
一律に何日、何週間とは言えません。負担を調整しても改善しない、悪化する、日常生活への影響が大きい場合は早めに相談してください。
お皿の周囲や奥の痛みで対応に迷っている方へ
大切なのは、診断名や音だけで必要以上に怖がらないこと、でも自己判断で放置もしないことです。
お皿の周囲や奥が痛むのか、お皿の下を押すと痛むのか、膝の内側が痛むのか。階段、立ち上がり、しゃがみ込み、歩行のどこでつらいのか。
今の痛みの場所と動作を整理し、何を減らして何を残すかを考えることが、対策の第一歩になります。
この記事について
この記事は一般的な情報提供を目的とし、診断を行うものではありません。症状や経過には個人差があります。強い痛み、腫れ、熱感、外傷、ロッキング、荷重困難などがある場合は医療機関を受診してください。
最終確認日:2026年9月11日
参考文献
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